小児心臓血管外科
診療紹介
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小児心臓血管外科では主に先天性心疾患の診断、治療に取り組んでおり、手術治療は昭和 44年 3月 15日に開始されて以来、令和 6年 12月末までに 4464例、うち人工心肺使用手術は2390例が行われています。先天性心疾患の手術を行っている施設は四国内でも限られており、このため心疾患を抱える子供たちは香川県のみならず四国全域から当センターに来られています。また、当科では心臓手術以外にも漏斗胸手術、カテーテル治療のバックアップ、重症呼吸不全や重症心不全に対する補助循環(ECMO)、重症心身障害児(者)の胸郭変形に伴う呼吸不全の外科治療なども手がけています。
主要な疾患について
心臓手術先天性心疾患に対する手術には大きく分けて人工心肺を使用して行う手術(開心術)と人工心肺を使用せずに行う手術(非開心術)があり、また別の分け方として次の手術までの一時しのぎ的な手術(姑息術)と次の手術を考えなくてもよい手術(根治術)があります。このような分類をした当院での手術件数の推移をグラフにまとめました。
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臨床的にこの10年間をみると1995年には開心術(人工心肺使用)が60例でその後60例前後を保っていましたが、2002年より少しずつ増加し、2005年は81例の手術を行いました。しかし、その後は徐々に減少傾向で、現在は年間40~50件となっています。2005年までの件数増加は、当院が香川県総合周産期母子医療センターとなったことや小児循環器科の充実も大きな要因ではないかと考えていますが、その後の緩やかな減少は全国的な出生数低下を反映しているものと思われます。手術成績については、現在のところ新生児・乳児期における開心術での病院死亡において全国平均よりも良好な成績を保っています。
重症呼吸不全や重症心不全に対する補助循環(ECMO)
胎便吸引症候群などために重篤な呼吸不全状態に陥った患児の呼吸補助、重症心不全患児に対する循環補助として、体外循環を用いて血液を酸素化する治療です。重篤な合併症を残す可能性もあるので、安易に選択すべき治療ではありませんが、当院では平成 7年以来単独の呼吸不全症例9例中7例で救命できました。
しかし、最近では人工呼吸器による高頻度換気(HFO)や一酸化窒素吸入などの呼吸管理が進歩して来たため、単独の呼吸不全に対してECMOが必要となるケースは稀となってきており、むしろ心臓手術後や心筋炎などによる強い心不全を乗り切るための循環補助として用いるケースが大部分となってきています。このような症例での救命率は非常に悪かったのですが、早期の診断技術やECMO管理の進歩などにより、現在では80%程度の救命率を達成できるようになっています。
漏斗胸
漏斗胸は比較的頻度の多い疾患ですが、従来の肋軟骨切除を伴う手術は侵襲も大きく傷跡も目立ちやすいので、変形が軽度な場合には敬遠されてきました。しかし、最近小さな創部から矯正用の金具を挿入する方法(Nuss法)が発表され、当院でもほとんどの症例で満足すべき結果でした。挿入した金具は手術後 2~3年で抜く必要がありますが、多くの場合で傷跡も目立ちにくく変形の矯正度合いも良好なので優れた方法と思います。このため、以前では手術をためらっていたような軽症例にも適応が拡大される可能性があると考えています。
重症心身障害児(者)の胸郭変形に伴う呼吸不全の外科治療
重症心身障害児(者)や慢性の神経疾患で寝たきりとなった方の中には、強い胸郭変形のために気管狭窄を来す方がおられます。この場合、気管切開により気道を確保することが多いと思われますが、中には気管と腕頭動脈の間に交通(瘻孔)を生じて大出血を起こし亡くなる方もおられます。
当院でも入院中に気管腕頭動脈瘻発症を認め、緊急手術で救命された方がおられます。しかし、この気管腕頭動脈瘻は発症すると緊急的に適切な処置を行わなければ致死的となる重篤な合併症です。このため当科では予防的に腕頭動脈を人工血管で置換したり、気管狭窄を改善させる目的で胸郭の骨を一部切除するような治療も行っています。
胸郭変形は経年的に進行することが多いため長期的な効果は不明で、現在経過観察中です。
診療実績
手術名 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |
人工心肺使用手術 | 心室中隔欠損閉鎖 | 12 | 17 | 15 | 12 | 19 |
心房中隔欠損閉鎖(部分肺静脈還流異常修復含む) | 4 | 5 | 9 | 7 | 7 | |
房室中隔欠損修復 | 2 | 2 | 4 | 1 | ||
ファロー四徴症修復 | 3 | 3 | 4 | 1 | 2 | |
大動脈弓再建 | 4 | 1 | 2 | 2 | 1 | |
ラステリ型手術 | 1 | 2 | ||||
総肺静脈還流異常/肺静脈閉塞 | 3 | 4 | 1 | 2 | 2 | |
大血管血流転換(ジャテン手術) | 1 | 1 | 2 | 1 | ||
ノルウッド型手術 | 2 | 1 | 1 | |||
冠動脈異常修復 | 1 | 1 | ||||
大動脈中隔欠損閉鎖 | 1 | |||||
両方向性グレン手術 | 2 | 2 | 1 | 1 | 3 | |
フォンタン型手術 | 5 | 2 | 1 | 2 | ||
大動脈弁置換(弁輪拡大含む) | 1 | 2 | 1 | |||
大動脈弁下狭窄解除 | 1 | 1 | ||||
僧帽弁(共通房室弁含む)置換 | 1 | |||||
僧帽弁(共通房室弁含む)形成 | 2 | 1 | 1 | |||
肺動脈狭窄解除(肺動脈弁置換含む) | 1 | 3 | 2 | 4 | 3 | |
肺動脈形成+肺血流調整など | 5 | 2 | 2 | |||
人工心肺非使用手術 | 動脈管結紮/切離 | 8 | 4 | 6 | 3 | 3 |
肺動脈絞扼(両側肺動脈絞扼も含む) | 6 | 5 | 7 | 4 | 12 | |
体-肺動脈短絡(シャント)作成 | 3 | 1 | 3 | 3 | 3 | |
末梢肺動脈再建 | 1 | |||||
大動脈縮窄解除 | 1 | |||||
血管輪切離 | 1 | |||||
ペースメーカ関連 | 新規および開胸を伴うシステム更新 | 1 | 2 | 2 | 1 | 3 |
ペースメーカ本体更新(ポケット部のみ) | 4 | 5 | 3 | 3 | 3 | |
ECMO(PCPS含む) | 導入(術中に導入したものは除く) | 1 | 3 | |||
離脱 | 2 | 3 | 4 | |||
その他 | 漏斗胸(ナス手術) | 1 | 1 | 1 | ||
腕頭動脈バイパス+胸壁部分切除 | 1 | 3 | 2 | 1 | ||
分類不能 | 17 | 20 | 16 | 16 | 16 | |
計 | 91 | 82 | 92 | 69 | 93 |
スタッフ紹介
川人智久 かわひと ともひさ
成育外科系診療部長、小児心臓血管外科医長
●小児心臓血管外科
心臓血管外科専門医/外科学会専門医・指導医/心臓血管外科学会専門医認定機構修練指導医/外科指導医/コンテグラ実施医認定/小児心臓血管外科医生涯育成プログラム育成指導医(Advanced-3)/卒後臨床研修指導医
下江安司 しもえ やすし
救命救急センター部長、外科系診療部長(成人心臓血管外科、末梢血管外科担当)
●心臓血管外科
日本胸部外科学会認定医/日本外科学会認定医・専門医/心臓血管外科専門医/日本脈管学会認定脈管専門医/日本血管外科学会認定血管内治療医/胸部大動脈瘤ステントグラフト実施医/腹部大動脈瘤ステントグラフト実施医・指導医/下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医・指導医/日本臨床外科学会医/卒後臨床研修指導医
安田 理 やすた おさむ
心臓血管外科医長(末梢血管外科担当)、救命救急室長
●心臓血管外科
日本救急医学会認定医・専門医/下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医/卒後臨床研修指導医
吉田 誉 よしだ ほまれ
集中治療室医長、心臓血管外科医師(成人心臓血管外科担当)
●心臓血管外科
日本外科学会認定医・専門医 心臓血管外科専門医/日本血管外科学会認定血管内治療医/腹部大動脈瘤ステントグラフト実施医・指導医/卒後臨床研修指導医
奥田直樹おくだ なおき
小児心臓血管外科医師
●小児心臓血管外科
日本外科学会認定外科専門医/卒後臨床研修指導医
江川善康 えがわ よしやす
小児心臓血管外科医師(非常勤)
●小児心臓血管外科
心臓血管外科専門医/身体障害者福祉法指定医/外科学会専門医