vol.28 物語が生まれそう、そんな病院。このページを印刷する - vol.28 物語が生まれそう、そんな病院。

2018年12月掲載

初期研修医/相川雄太さん

 海外に16年暮らし、東京に9年住み、そして香川に辿り着いた流れ者、相川と申します。2018年度からここ四国こどもとおとなの医療センターで初期研修医をしております。  

 香川の中でもわりあい郊外にある当病院ですが、ほかの病院では見られない、圧倒的に面白い点があります。
 小児科に強くていろんな科があることだろうって?
 いえ、違います。それも確かに魅力ですが、そんなことではありません。
 この病院の一番面白いところは、従来の「病気を治す」以外の医療の可能性が、ふんだんに盛り込まれているところにあります。

 幼いころからおとぎ話や物語が好きで、自分自身でもよく物語を作っていました。本を書いていたこともあります。私が幼いころは、現実とは子どもの物語のような、幸せな世界なのだと思っていました。
 しかし現実世界は、おとぎ話のように「みんなずっと幸せに暮らしました」とはなかなかなりません。お金のこともあるし、家庭の事情もあるし、病気や人間関係など様々なものが立ちはだかります。そういう「お話のようにはいかない色々なこと」が現実にあるとわかったうえで、それでもそんな物語の世界が現実にあったらいいなあとずっと思っていました。
 幸いにも大学時代に周りの人に恵まれ、色々な経験を経ていく中で自分の夢を肯定的に受け止めることができ、最終的に私は「子どもたちがこれから歩む人生が、物語のように感動であふれるものになる世界を創る」という目標を持つようになりました。


 

 さて、自分はたまたま医学部に入っていたので、目標を実現するなら小児科の医師かな、と思い小児科の病院を探していましたが、東京近辺にそのようなところはなく…。
 あてもなくネットをさまよっていると、ふとこの病院の不思議な科が目につきます。
 「んん??児童精神科と児童心療内科が別にあるぞ??どういうこと??」
 もともと教育系にも興味があったため、児童精神科には興味を持っていました。
 しかし児童心療内科とはいったいなんだ…?

 いざ病院に来ると、病院の壁がカラフルに塗られております。入る前からわくわくしました。中に入ると、明るい彩りの照明に、大きな仕掛け時計、stand by meの歌詞がイラストとともに大きく描かれている壁など、とても病院とは思えません。

 さてその児童心療内科、蓋を開けてみると、なんと子どもの治療ではなく、不登校やADHDなど子どもに関わる問題を抱えている親の方を治療しているではありませんか!
 子どもに一番かかわる親が子どもに対する接し方、考え方が変わっていく中で、今まで「子ども自身の病気」と考えられていたADHDなどの問題が、確実に良くなっていく姿がそこにはありました。
 「子どもの周囲の環境ごと治療する」という今までにない新しい形の医療。私はここに、「子どもたちの人生が物語のように感動であふれる世界」のヒントを得たような気がしました。

 もちろん児童心療内科だけではありません。重症心身障碍児の病棟や、不妊外来、遺伝外来も手掛ける総合周産期母子医療センター、クローズアップ現代でも紹介された、病院の環境づくりを担うホスピタルアートなど、「どう治すか」だけでなく「どう健やかに成長していくか」を支えるいろいろな仕組みがここにはあります。
 医療の面でも、日本でもトップレベルのNICU、そして小児分野のあらゆるスペシャリストが揃っております。こと小児のことについてこの病院の横に並ぶものはなないでしょう。

 病気の治療だけでなく、子どもたちの成長に多くの面から関わっていく医療。ここから巣立っていく子どもたちの物語のお手伝いが少しでもできたらと思いながら、楽しく働く毎日です。

<2018.12>