〈こども〉 vol.11 川崎病について
■川崎病とは
乳幼児(特に、生後6か月~6歳)に起こりやすく、日本では年間に0~4歳のこども1000人に対して3人の割合で発症し、全身の血管の炎症によって引き起こされる病気です。原因ははっきりしていませんが、ウイルスや細菌に感染したことがきっかけで免疫反応(体外の異物から、からだを守ろうとする反応)が異常に活性化し、血管に炎症が引き起こされているのではないかと考えられています。
この病気がとても怖いのは「こどもなのに心筋梗塞を引き起こす可能性がある」からです。後述しますが、心臓の筋肉を養う大事な血管である「冠動脈」が、川崎病による血管の炎症ためにボロボロになってしまい、一度瘤状に膨らんだ後に血管の内側が狭くなってしまうことがあります。最悪の場合はつまってしまうことがあり、こうなってしまうと心筋梗塞になってしまいます。
そうならないように、川崎病のことをお父さんお母さんがしっかり知っておくことが大切なこどもたちを守るうえで重要です。
<冠動脈がつまった症例>
生後10ヶ月児 正常な方の右の冠動脈
川崎病にかかって2か月後に
右の冠動脈がつまっている
■川崎病の症状
川崎病はその特徴的な症状で診断されます。下記の6つの症状のうち5つ以上を認める場合に川崎病と診断されます(定型川崎病)。ただし、下記の症状が5つ以上そろっていなくても他の病気ではないと判断された場合には、川崎病と診断されることがあります(不全型川崎病)。
- 5日以上続く発熱(解熱薬で下がりにくく、児も不機嫌なことが多い)
- からだに赤いぶつぶつが出る(不定型発疹)
- 両方の白目のところが赤くなる(眼球結膜充血)
- 唇や舌が赤くなる(口唇口腔粘膜発赤)
- 首のリンパ節が腫れる(頸部リンパ節腫脹)
- 手のひらや足の裏が赤くなり指先が腫れる(手指紅斑腫脹)
…これらの主要な症状以外に、BCG予防接種部位が赤くなる、嘔吐下痢症状、腹痛、風邪症状、関節痛なども、全身に広がる小さな血管の炎症によって引き起こされることがあり、川崎病の診断において参考になります。
また、川崎病に似た症状が出る他の病気として、溶血連鎖球菌感染症、アデノウイルス感染症、エルシニア感染症、マイコプラズマ感染症、若年性特発性関節炎などもあり、川崎病の診断には注意が必要です。時々ほかの病気が隠れていることもあります。
まずは、お子さんが発熱によりとても不機嫌な時に、目、口、腕や手のどこかに赤みが出てくる場合には、川崎病を疑って早めに小児科を受診することがとても重要です。
■川崎病に対する検査
血管の炎症の影響で、血液検査や尿検査で炎症の存在を疑わせる異常値を通常認めます。特に、白血球数、炎症反応(CRP)、尿中白血球などは比較的鋭敏な検査です。他にも、肝酵素値、血液ナトリウム値、血液アルブミン値なども参考になります。
心臓の冠動脈については、心臓超音波検査によって簡単に冠動脈の形を評価することができます。当院では、川崎病や川崎病が疑われるお子さんに、小児循環器を専門とする医師がくり返し超音波検査をさせて頂いています。
<心臓超音波検査>
右の冠動脈を観察している 左の冠動脈を観察している
■川崎病の治療
川崎病は2週間から1ヶ月程度で自然に熱が下がると言われていますが、だからと言って熱が下がるのをのんびり待っていてはいけません。というのも、熱が出ている日数が長ければ長いほど、冠動脈がボロボロになって後遺症が残る可能性が高くなるからです。したがって、川崎病と診断されたらすぐに血管の炎症を抑える治療が必要になります。また、川崎病が疑われた場合にも不全型川崎病として治療が必要になることがあります。
川崎病の治療としては、ガンマグロブリン製剤の点滴とアスピリンの内服が最初に行われます。ガンマグロブリンとは献血で頂いた血液中のグロブリンという成分のみを抽出した血液製剤です。つまり、この治療は「輸血治療」に順じて説明と同意のもと行われます。川崎病の場合、グロブリン点滴治療を受けなかった人は、グロブリン点滴治療を受けた人に比べて20倍以上の確率で冠動脈に後遺症が出ることが統計上わかっています。したがって、川崎病の場合(川崎病が疑われる場合)にはすみやかに治療を受けることが大切です。
グロブリン点滴治療を受けた子どもたちのうちで約6人に1人は1回のグロブリン点滴では血管の炎症が治まらず熱が下がらないことが最近問題となっています。その場合には、もう一度グロブリン点滴をしたり、ステロイド、インフリキシマブ、血漿交換療法など他の治療を併用して熱を下げる必要があります。入院期間は、おおよその目安ですが1回のグロブリン点滴で治った場合で約10~14日間です。
■川崎病の後遺症
川崎病で大切なことは、熱が出た日から「9日以内」に血管の炎症を抑えることが望ましい。というのも、全員ではありませんが、10日以上川崎病の熱が続く場合には冠動脈に悪い変化が生じやすいことが分かっているからです。冠動脈に変化を生じやすい方には頻回に心臓超音波検査を実施して冠動脈に悪い変化がないかどうかをチェックする必要があります。
万が一冠動脈に変化が出てしまうと、まず冠動脈は膨らみ始めます(血管径4mmまで)。もっとひどくなると瘤のような形となります(血管径4mm以上)。冠動脈の瘤の大きさが5mm以下だと元の太さに戻ることもありますが(退縮と言います)、6mm以上だと元の太さに戻らずに将来冠動脈が狭くなって狭心症や心筋梗塞が起こりやすくなるのではないかと言われています。ちなみに、2017年に発表された第24回川崎病全国調査では、2015年1月~2016年12月までの2年間に日本全国で31,595人の子どもたちが川崎病にかかっています。そのうち、瘤の後遺症を持った方は242人(0.8%)でした。そして、血管が細くなってしまった方は12人(0.04%)で、残念ですが2人の子どもたちが亡くなっています。
もし、川崎病の後遺症が残った場合には、長期間にわたってアスピリンやワーファリンという血をサラサラにするお薬を飲みながら、定期的に心臓超音波検査を受ける必要があります。将来的に冠動脈が正常の太さに戻れば内服を中止することができます。しかし、瘤が残った場合には継続的な内服治療が必要です。何年かごとに心臓カテーテル検査による冠動脈チェックをしていく必要があります。
<冠動脈瘤症例(生後9か月児)>
右の冠動脈は7mmに拡大 左の冠動脈は7mmに拡大
<退縮症例>
生後10ヶ月児 8歳の時
左の冠動脈に5mmの瘤がある 左の冠動脈は正常化している
<冠動脈の狭くなった症例>
生後1歳児 10歳の時
左の冠動脈に5mmの瘤がある 右の冠動脈が狭くなっている
文責 小児循環器内科 大西達也