〈おとな〉 vol.03 腰を守るために、腰痛の予防と治療このページを印刷する - 〈おとな〉 vol.03 腰を守るために、腰痛の予防と治療

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 日本の腰痛人口は2800万人で、40代から60代に特に多く、2人に1人は腰痛もちです。また日本人の8割以上が生涯において腰痛を経験するといわれております。表1に示しますように病気やけがの自覚症状として腰痛は男性で1位、そして女性では肩こりについで第2位です。



  

表1) 男女別の有訴者率

 腰痛の原因は、脊椎疾患に限れば、腰部脊柱管狭窄症、変形性脊椎症などが60%そして骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折が30%を占めております。しかし脊椎疾患以外にも、解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石などの泌尿器の病気、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科の病気でも腰痛をきたします。
 本日は腰部脊柱管狭窄症という疾患を紹介します。腰部脊柱管狭窄症は読んで字のごとく、腰の脊柱管が狭窄している病気です。脊柱管とは、背骨、椎間板や黄色靭帯などで囲まれた脊髄神経が通るトンネルです。年をとり筋肉が衰えてくると、骨と骨が不安定となり、背骨が変形したり、椎間板は飛び出して来たりします。また不安定となった骨を支えるために、黄色靱帯が厚くなり神経の通る脊柱管が狭くなります。これにより神経が圧迫を受け、神経の血流が低下し腰部脊柱管狭窄症を発症します。
 腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状は、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行です。背筋を伸ばして立っていたり歩いたりすると、ふとももや膝から下にしびれや痛みが出て歩きづらくなります。しかし、すこし前かがみになったり、腰かけたりするとしびれや痛みは軽減されるという症状です。このような症状が思い当たる人がいると思います。
 治療法は、手術ではない治療としてはリハビリテーション、コルセットの装着、神経ブロックや脊髄の神経の血行を良くする薬などがあります。これらで症状が改善することもあります。しかし、歩行障害が進行し、日常生活に支障が出てくる場合には手術が必要となります。



 ここでリハビリテーションの一つである日常生活の中でできる腰痛体操を紹介します。腰椎を支える主な4つの筋肉は、腹筋、背筋、ハムストリングスそして腸腰筋です。これらの4つの筋肉の筋力の維持と柔軟性を保つことが重要です。それでは腰痛体操を紹介します。  

 まずは、あおむけになり、両膝を曲げて両手で抱えます。これにより背筋が柔軟となります。次に両膝を胸に引き寄せながら、背中を丸めるようにして上半身をゆっくりと起こす。骨盤の傾きを減らし、腰椎の反りを正常化します。

 つぎは、先程の状態から片方の足を伸ばして床につけるようにします。左右交互に行います。これにより腸腰筋が柔軟となります。つづいてあおむけになり、両膝をたてます。背中を床につけたまま、尻と腰を持ち上げる。腹筋、背筋の筋力を強化し腰椎のそりを減らします。

 最後はうつ伏せになり、手のひらを床に向けて、両腕を頭のほうに伸ばす。腕が90度くらいになるまで両肘を曲げながら、ゆっくりと上半身を起こす。腹筋、背筋の筋力を強化します。それぞれの運動は5秒から10秒間持続してください。しかし、激しい痛みのある方は行わないでください。すべての体操を行う必要はありません。5回を目安に、無理のない範囲で行いましょう。普段から予防を心がけることが大切です。

 

 最後に腰痛の原因の1つである骨粗鬆症についてお話します。
 骨粗鬆症の度合いを示す、骨密度は50代をすぎると急激に減少します。とくに閉経をむかえた女性はさらに深刻です。表2は、骨粗鬆症に伴う腰椎圧迫骨折と大腿骨頸部骨折の発生率です。骨密度の低下する60代から急激に増加していることがお分かり頂けると思います。脊椎が骨折すると、背中が曲がり、身長が低下するばかりか、杖歩行、車いす移動と日常生活動作も制限され、寿命が縮まります。背骨の骨折が3つ以上になれば死亡率は4倍になると報告されております。

 
表2) 年代別腰椎圧迫骨折と大腿骨頸部骨折の発生率

 骨粗鬆症にならないためには、やはりCaを十分にとることです。さらに適度な運動と日光浴も重要です。50歳を過ぎれば、1度骨密度を測ってみませんか、かかりつけ医の先生に相談してください。当院には腰椎と大腿骨の骨密度を測定する機械があります。どうぞ紹介状を持って当院に受診してください。紹介状があれば長い時間待つことなく骨密度が測定できます。もし骨粗鬆症と診断されれば、かかりつけの先生のところで治療していただきましょう。そして年に1回は骨密度を測定し1年間の努力の結果を確認しましょう。そうすれば骨折知らずの人生を送ることができるかもしれません。 

四国こどもとおとなの医療センター
リハビリテーション科医長
井上 智人