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Hospital Art Director(以下HAD)
ボランティア室 / 森 合音

 ホスピタルアートディレクターは病院建設時より病院運営メンバーや建築家、デザイナーなど各種専門家との対話を繰り返し、ハード面から「新しい病院」をかたちにしてゆくお手伝いをしています。各エリアの現場スタッフとの対話から、その場所にふさわしいアートを提案して患者さんを思うスタッフの気持ちを表現したり、コンセプトに基づく内装のカラーコーディネートや、事務局との恊働で進める備品選択、サインの改善、庭園管理など職員がより働きやすく、患者さんに優しい環境づくりのアイデアを提案するのも仕事です。

 広く「病院」を知ってもらう為に広報物やノベルティーグッズのデザインもしますが、紙面上のデザインだけが業務ではありません。医療者やソーシャルワーカーと連携して、患者さんにとって診察室や病棟以外の居場所として「ボランティア控え室」を開放し、気分転換やコミュニケーションの練習の場として使用することもあります。また心理的な要因から長期的な支援が必要な患者さんに対して、退院後もボランティア活動を通じて病院とのよい関係を保持してゆけるように治療の周辺サポートをすることもあります。療育指導部やデザイナーと恊働して入所者さんの作品を製品化し院内備品として使用、社会参加のきっかけを作るプロジェクトの実施や、美術館や近隣の学校、福祉施設との恊働プロジェクトなど、地域とのつながりを育ててゆく為の「人と人の関係性のデザイン」も視野に入れて活動しています。

 院内でのアート活動(イベントやものづくり)を通じて院外からボランティアさんが積極的に「病院づくり」に参加できる機会を作ることも大切にしています。ここ忘れてはいけないのは「ボランティアさん」は病院にとって「便利な人」ではないということです。病院のして欲しいことばかりを一方的に要求するのでなく、その人に出来ることを楽しみながら出来る分だけお願いする。そして、現場のニーズと調整する。という相方向からのコミュニケーションは不可欠です。その連携をスムーズに行うことができれば、無理なく多様性に富んだ素晴らしいボランティアサービスが実現できると考えています。
 病院は人がいのちと向き合う場であり地域と密接に関わる場所です。病院内で起こることを「人ごと」として捉えるのではなく、「いつ自分や家族に起こるかもしれないこと」として一緒に考え行動する仲間として関わっていただきたいと思っています。スタッフでもボランティアさんでもアーティストでもアートを通じて共通の体験をすることで仲間意識や愛着が芽生え、「自分のこと」として自発的に環境整備に関わってくださるようになります。これからも「共に」をキーワードにアートというフィールドで、院内と院外をつなぎ、開かれた病院づくりをめざしてゆきたいと思っています。

<2016.09>