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Art Psychotherapist(以下APT)
臨床研究部 / 森 香保里

 当医療センターで行っているアートサイコセラピー(以下APT)についてご紹介します。日本では震災後に行なわれたアートセラピーで、言葉を聞いたことがあるかもしれません。

 APTとは従来の言葉を使って行う精神療法とは異なり、『意思疎通(コミュニケーション)の方法』として言葉と視覚芸術を使います。

 いわゆる「癒し」「脳の活性」「自己啓発」のために行う美術製作やアクティビティとは異なり、アート(芸術)とサイコセラピー(精神療法)の二つの要素を併せ持った治療方法と考えると分かりやすいかもしれません。また、「心理検査」とも違うため、単純に「絵を見て分析をする」ものでもありません。APTは美術の授業とも違うため、「上手く描いたり、上手に作る」ことが目的ではないため、APTを受ける人には美術の経験や専門知識を全く必要としません。

 また、アートセラピーというと、子どもに行うものと考える方が多いようですが、APTでは大人にも行います。大人よりも言語能力の劣る子どもたちにとって、『言葉以外の方法』で「伝える・表現する」という機会の提供を一番に考えていますが、私は大人にも必要だと考えています。大人でも、子どもでも、自分の気持ちを100%言葉にすることは果たして可能でしょうか?

 「アート」というと、「絵」を思い浮かべる方が多いと思いますが、言葉にならない思いや気持ちがAPTでは色々な『もの』に現れます。それは時に絵画であったり、時に粘土で作られていたり、きっと皆さんが思い描く「額に入れて飾られる素敵な美術作品」とは違う様に見えるでしょう。しかし、APTの中で作られた『もの』には言葉以上に伝えるものがあるのです。それは、「作品」として完成されていなくてもよいのです。

 自己主張が苦手な子どもでも、描くことが苦手な大人でも、APTでは人の目を気にせず自由に自分を表現する空間と時間が提供されます。描きたい気分じゃない子は、ひたすらお話をするでしょう。描きたいものが沢山ある人は何枚も絵を描くでしょう。『自由に自分を表現する』ことは「絵」だけに縛られることもないのです。

 私の保有資格である英国のAPTには厳格な治療基準があり、常に他の治療家と現在行われている治療が適切かどうか議論しないといけません。現在日本にはAPTの制度がないため、私は英国の他のアートサイコセラピストと協議し、毎年英国学会に出席しています。

 APTを受けに来るのは病気だから…というわけではありません。みんな違った悩みやストレスを抱えており、それぞれが色々な理由で生活をするのに難しい状態になっています。現在当センターでのAPTは研究として無償で行っており、主に子どもや周産期の女性を対象としています。興味のある方は地域医療連携室までお気軽にご連絡ください。

<2016.09>